羽賀洋子|HAGA YOKO

〜「色奏−影映」PARFUM No.166 ESQUISSE〜

色 奏 — 影 映

羽賀洋子

 私の個展の会場に、ある男性の方が入ってこられ、一回りして椅子に座り、しばらくして「きれいだなぁ」とつぶやかれました。何気なく言われた言葉かもしれませんが、私にとってはとても嬉しい一言でした。・・・そう、私は、見る人が一瞬でも日々の喧噪を忘れ、時間を忘れ、自分を忘れ、美の世界に入り込むような絵を描きたいのです。

 私の絵は、水面に木々や植物などが映り込み、陰影が重なり合っている様からイメージを得ています。そして、やわらかな午後の陽光、水面に反射し透過する光、木漏れ日などが感じられるように描いています。決して強い光ではなく、画面の中に溶けこんでいくような光を内包した色彩が響き合い、世界をつくっていきます。材料は、綿布と水性アルキド樹脂絵具です。この絵具は表面はマットであるにも関わらず、発色は鮮やかなところが魅力です。色の透明感を大切にしながら綿布に色を染込ませ、柔らかい刷毛で薄く何層も塗り重ね、色に深みを出し描いていきます。あるところは色と色とを穏やかに変化させ、またあるところは絵具の滲みや筆あとをシャープに残し、画面にコントラストをつけて空間をつくっていきます。

 ここ数年、音楽家とのコラボレーション展を企画しています。音楽の演奏と美術作品を表現し合うことで聴覚と視覚が融合された新鮮な体験ができます。また、自分の作品を音楽に置き換えて見てみると表現の幅も広がってきます。音の旋律によって感じ方が変わるように、色の組み合せでも様々な感情を表現することができるので、音と色との共通性を感じ、新しい発見があります。色彩は私の表現にとってとても重要です。

 色を奏でる・・・どのような世界を奏でていくか、奏でていけるか、香りたつような豊潤な絵画を目指して、これからも描き続けていきたいと思っています。

(PARFUM No.166 p.28 2013)
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